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かわさきマイスター紹介

溶接士 熊谷 隆さん

金属の溶接には様々な材料が使われているため、形や熱処理に違いがあり、複雑で高い技術が必要です。とりわけチームで仕事をする場合、適材適所に職人を配置するなど、オールラウンドプレイヤーとしての素質が求められます。熊谷さんは化学工業基地などのプラント設備の溶接チームを主導し、高度な技術力と緻密な計画力を携えプラントの安全操業を裏から支えている技能者です。
プロフィール
熊谷 隆さん

横須賀生まれ。横須賀工業高校で機械工業を学び30年卒業。当時、造船ブームに沸いた造船所で働きながら溶接技術を覚える。その後、化学装置関係の溶接技術を修得し、プラントなどを専門にこなす溶接技能士となる。平成2年プラント溶接入社、現在に至る。かわさきマイスター平成12年度認定。
大和市在住。(有)プラント溶接常務取締役(引退)。

熊谷さんについて教えてください

始めるきっかけは何でしたか?

高校を出た昭和30年前後は造船ブームで、私もドックで働きながら溶接技術を覚えたのですが、その後、日本は石油化学工業の時代に移り、あちこちで大型プラントの建設が相次ぎました。その頃は仕事のきつい溶接工の成り手は少なく、引く手あまただった上に給料が当時の大卒初任給をはるかに上回る高給であったこともあり、化学プラント専門の配管溶接工に転向しました。日石化学(当時)など各社でテストを受け、資格を取ってだんだん腕を上げていきました。

やっていて一番面白いと感じることは何ですか?

溶接の作業では強烈な光が発生するため、遮光マスクは欠かせません。
溶接の作業では強烈な光が発生するため、遮光マスクは欠かせません。
プラント溶接は石油基地の現場に出かけて行う仕事です。LNGや地下タンクなど難しい施工場所の作業を自信持って仕上げた時は、一番のやりがいを感じます。例えば石油系、重油系のパイプがいっぱい並んでいて手首も入らないような狭い配管個所で、細かい溶接作業をしなければならないことがありますが、溶接を必要とする配管の材質を的確に見極め、それに見合った溶接棒を選択し迅速に仕上げできた時は満足感を味わいますね。仕事が難しいほど、やりがいがあるものです。「日本の石油コンビナートを支えている」なんてえらそうなことは言いませんが、少なくても私が手がけるプラント溶接が産業基盤の安全を維持するのに少なからず貢献しているという自負心は持っています。

長年、継続して技能研鑽に努めることが出来たのはなぜですか?

溶接された配管類。
溶接された配管類。
端的に言えば、そもそもこの職業に就いた動機と同じく、いただける単価(報酬)がいいことですね。もちろん、責任感や人に負けたくないというプライドもありますが、技能を磨けば磨くほど、お金になって跳ね返ってくる、つまり、研鑽の結果得られた高度な技量に見合う正当な評価がいただけるということが、この仕事の最大の魅力ですね。

苦労したことはありますか?

溶接一筋50年余のキャリアを誇る匠の手。
溶接一筋50年余のキャリアを誇る匠の手。
免許証にもいろいろランクがあり、中にはペーパードライバーのように実技の伴わない人もいますから、その人の技量を見極めるのが重要です。また現場の状況によって作業者同士の溶接理論がかみ合っていないと、溶接プロセス全体がうまく進展しないケースもあります。溶接に失敗は許されませんから、現場の作業管理を任された以上、適材適所にそれなりの溶接工を配置することに気を使います。作業をしている後ろから、そっと技量を見極めることもあります。逆に職人からバカにされることもあり得えますから、こちらもうかうかとしてはおれませんが…。いずれにしても生涯、技術研鑽あるのみです。それにプラント溶接の現場は、石油やナフサなど高温の液体が常にパイプの中を流れているわけですから、炉や配管などプラント設備全体の掌握と安全管理に最大の注意を払います。

自分が誇れる、自信のある卓越した技能を教えてください

「同じ配管でも溶接方法は金属の種類によって異なります」と説明する熊谷さん。
「同じ配管でも溶接方法は金属の種類によって異なります」と説明する熊谷さん。
溶接は二つの金属をガスやアーク(発光放電)などの熱で融解して一体化させる技術ですが、一口に金属と言っても鉄鋼、ステンレス鋼、アルミ合金、銅、チタンなどいろいろなものがあります。その中でも、私はステンレス鋼の溶接を得意とします。同じ金属でも用途によって薄い、硬い、柔らかいなど密度が異なり、それぞれに合った溶接棒の選択をしなければなりません。また材質の混じった金属もあり、その場合はトーチという溶接機のヘッドを基準に沿って取り替え、溶融温度を細かく調整する必要があります。金属成分の含有量によって電流の調整など溶接法が異なるため、それだけ幅広い経験と高い熟練度が要求されるわけです。ステンレス鋼の溶接は特に、この辺の対応が難しく欠陥も出やすいですが、私は一番自信を持っています。

ものづくりについて教えてください

ものづくりの魅力を教えて下さい。

金属の微妙な材質の違いを見分ける必要があります。
金属の微妙な材質の違いを見分ける必要があります。
どんなものづくりも、奥が深いことは共通しています。溶接の世界も、いくら経験を積んで技量を磨いても、これでいいということはありません。また、経験があっても壁にぶつからないと技量はアップしないものです。経験と挫折を繰り返しながら成長する。これが、ものづくりの原点でしょう。そして、現場に入って人がやっていることをまず覚える。覚えてくると、どんどんやりたくなる―これこそ、ものづくりの醍醐味と言えるのではないでしょうか。

かわさきマスターに認定されて良かった点を教えて下さい

普段はなじみの薄い溶接の仕事にも、私のような技能者がいるということが広く市民に認識され、それはそれでよいのですが、イベントなどで実演する際、プラント溶接の現場を会場に持ってくるわけにいきませんから困ります。写真やビデオなどで見ていただくのがいいかも知れませんね。

後継者を育成するため、何に取り組まれていらっしゃいますか?

アークと言われる溶接棒の束。1本1本を熱で融解して金属と一体化します。
アークと言われる溶接棒の束。1本1本を熱で融解して金属と一体化します。
今のところ、まだ後継者はいません。溶接は後継者を育てるのにお金がかかり、一人前にするには3~4年かかります。この仕事はチームワークが大切ですから、相手によって気が合う、合わないなど好き嫌いのある人は向いていません。努力家で誰の意見でも素直に聞ける人でないとだめです。そういう人は、先輩も自然に教えたくなるのです。仕事に慣れてくると謙虚さが失われ、上司や先輩の声を無視するようになってしまいがちですが、「他人の忠告は天の声」と言うように、どんな内容の意見でも感謝して受け入れるべきです。そういう意味で、私が本当に養成したいと思う人が現れれば本気で考えます。

これから「ものづくり」を目指す方たちへアドバイスをお願いします

手に持っているのが、実際の溶接棒(アーク)。
手に持っているのが、実際の溶接棒(アーク)。
プラント溶接は安全管理と高い品質が要求され、それだけ高度な技術が必要です。特に安全管理に徹する施主側の見る目は厳しく、作業の進め方が悪いと「もういい」と仕事を途中で打ち切られることもあります。X線で溶接個所を検査すれば、溶接欠陥などすぐにわかりますから…。故に、私たちも腕のいい職人を集めなければなりませんが、残念ながら近年、熟練溶接工の不足が顕在化しています。溶接は石油化学はじめ造船、土木建築、車両、機械などあらゆる現場で活躍できる仕事であり、産業の発展とともに将来にわたって希望の持てる職種ですから、もっと後進が出てくれることを願っています。

最後に、これからの活動について教えて下さい。

さっき言ったように、一日も早く後継者候補が現れるのを待つのみです。溶接士の育成には長い養成期間と多大なコストが必要ですから、その辺のことも考えなければなりません。

ありがとうございました。
プラントの配管溶接を得意とする熊谷さんは、新日本石油化学(現・新日本石油精製)や日本触媒など川崎コンビナートにある多くの石油化学工場で仕事をこなし、溶接技能士としての腕を上げてきました。インタビューでは謙遜されていましたが、プラントの安全操業につながる熊谷さんの仕事は、わが国産業の中核でもある石油化学工業の発展に小さいながらも足跡を残していると言ってもいいのではないでしょうか。