地元暮らしをちょっぴり楽しくするようなオリジナル情報なら、川崎市麻生区の地域情報サイト「まいぷれ」!
文字サイズ文字を小さくする文字を大きくする

川崎市麻生区の地域情報サイト「まいぷれ」

かわさきマイスター紹介

特殊ガラス容器製作  今井 忠雄さん

新素材の開発研究を支える実験用特殊ガラス容器

提供:川崎市
今井さんは極低温(摂氏マイナス270度)にも耐えるガラス真空魔法瓶や金属とガラスの接着など、複雑で特殊な理化学実験用ガラス容器を自在に作り出す達人です。高度な技能を駆使し、創意工夫して研究者からの要望に即座に対応し、製作するのが今井さんのモットーです。製作したガラス容器は大学の最先端の研究に使用され、研究者からも厚い信頼を得ています。 今井さんが所属する東京大学物性研究所の特色ある装置や部品の制作、改良を行なっており、独創的な実験装置の開発に重要な役割を果たしています。
麻生区在住。東京大学物性研究所<br>研究支援推進員
麻生区在住。東京大学物性研究所
研究支援推進員
プロフィール

今井 忠雄(いまい ただお)さん

昭和16年広島県生まれ。地元中学を卒業後、15歳で上京。昭和32年4月、日本電気 玉川工場内の日本電気真空ガラス(山二製作所)に入社し、ガラス加工に携わる。
ガラス加工及び石英加工の製作に従事し、20年間勤める。35歳の時、六本木にあった東京大学物性研究所に入所。平成12年に六本木キャンパスが柏新キャンパスに移転し、今井さんも移動。ガラス工作室に勤務し現在に至る。
これは、今井さんの技能を紹介する動画です。クリックしてご覧ください。

今井さんについて教えてください

始めるきっかけは何でしたか?

デスクバーナーでパイレックスガラスを加工する今井さん。ガラス職人として民間企業にいた時に修得した技能が大きく役立っています。
デスクバーナーでパイレックスガラスを加工する今井さん。ガラス職人として民間企業にいた時に修得した技能が大きく役立っています。
今はこうした立派な研究所にいますが、もともとはガラス職人です。もう50年以上前の話ですが、日本電気 玉川工場内の日本電気真空ガラス(山二製作所)に入社後、ガラス加工部に配属され、ガラス加工、石英加工の製造を担当したのがそもそもの始まりです。そこに20年ほど居まして、ガラス容器作りの基礎を覚えました。通信機器とかレーザー管などを作っていました。ちょうど高度成長期へ向かう時期で、中卒でも金の卵と言われた人手不足の時代でした。

やっていて1番面白いと感じることは何ですか?

新素材開発のため研究所では様々な実験用器具の製作依頼がガラス工作室に寄せられます。
新素材開発のため研究所では様々な実験用器具の製作依頼がガラス工作室に寄せられます。
私が作っているガラス容器は理化学実験用の器具です。新しい物質を作り出そうとする目的に適った器具や装置を新たに用意しなければならないことがよくあります。ガラス容器もその一つで、様々な研究を支援するため物性研究所の中にガラス工作室が設置されています。ガラス工作は機械化が難しく、職人技に頼らざるを得ない分野ですから、研究所に私のようなものづくりの本職がいると大変尊重され、研究所の皆さんから頼りにされます。物性研は東京大学の付属研究所であると同時に、全国の物性科学のための共同利用研究所でもあります。従って全国の大学や研究施設から特殊ガラス容器発注も多く、その一つひとつに対応して新しいものを開発していくのが私の役目で、やりがいを感じています。
先生方から依頼されて私が作ったガラス器具で「いい実験結果が出ましたよ」と言われた時は、うれしいですね。社会に出て海外など各所で活躍した後、再び研究のために古巣の物性研に戻ってくる人も多く、そうした研究者と懐かしく再会できるのも、この仕事を長くやっているから味わえる喜びです。実際この仕事をやっていると面白いことばかりですよ。

長年、継続して技能研鑽に努めることが出来たのはなぜですか?  (他の道に行こうと思わなかったですか?)

一品一品、研究者の要請にかなった実験器具を手づくりで念入りに仕上げていきます。
一品一品、研究者の要請にかなった実験器具を手づくりで念入りに仕上げていきます。
常に違うもの、これまで経験したことのない単品ものを手がけてきたのが技術向上にプラスしたと思います。研究者からのニーズはそれだけ細かく、個別なものが多いのです。百個とか何千個単位とか量産品製造が使命である企業では考えられないことで、ここでは一品もの、試作品の依頼がどんどん来ます。一つひとつの注文品について「どう対応するか」自分でじっくりと考えなければならないし、またそれができるのです。
このように私が依頼される器具は、最先端の科学に関するものばかりですので、常に技能を磨いていなければなりません。色々と誘いもありましたが、私は物性研が好きでしたので変わりませんでした。ましてや他の仕事をしたいと考えたこともありません

苦労したことはありますか?

日本電気真空ガラス(山二製作所)時代は徒弟制度でしたので、何度も親方に怒られたものです。それでやめようと思ったことが何回もありました。どんな仕事でも向いている、向いていないということがありますが、努力すれば解決することです。

自分が誇れる、自信のある卓越した技能を教えてください

実験用の特殊ガラス容器は摂氏900~1200度以上でないと溶けないガラスを使用するため、高度なテクニックが必要です。今井さんはこれまで、できないと言ったものはありません。
実験用の特殊ガラス容器は摂氏900~1200度以上でないと溶けないガラスを使用するため、高度なテクニックが必要です。今井さんはこれまで、できないと言ったものはありません。
私がいるガラス工作室では研究用の特色のある装置や部品の製作、改良を行なっていますが、教授や研究者から難しい注文がきても、だいたいクリアできるというか、要望に100%応える自信があります。例えば金属とガラスをミックスしたガラス容器とか、外に注文を出したができなかった、あるいは途中でギブアップして結局私のところに持ち込まれたものなど、これまで何回も仕上げてきました。第一、私自身「できない」とは決して言いません。特にガラス材と金属を組み合わせた特殊容器の製造は、それぞれ膨張係数が違うため、どんな金属でも溶接できるわけでなく、両者の特性をよく見極めて接合する知識・能力を持たなければなりません。最近の研究に利用されるガラス製の実験装置や器具は、真空はもとより液体ヘリウムなどを使用しての研究が多くなっていますので、材質の選定や設計工作法に高度な技術が必要となってきています。透明性や熱伝導の少ない点でガラス製が優れており、研究者から依頼が絶えることがありません。

ものづくりについて教えてください

ものづくりについて教えてください。

私の作った器具で実験がうまくいったと聞くとうれしいですね。
私の作った器具で実験がうまくいったと聞くとうれしいですね。
私が作ったガラス容器で実験がうまくいったと言われた時などは、ものづくりに携わる者として心底うれしいですね。ものづくりは独学で覚えるのと、師匠がついているのとでは進歩の仕方が違います。

かわさきマスターに認定されて良かった点を教えて下さい

認定されてから、いろいろな人、知らない人から問い合わせが来たり、インターネットを見てガラス工作室の見学を希望してくる人も増えました。ひとまわり、人との交流の輪が広がったことがとてもよかったです。準公務員の私の場合は比較的オープンに仕事場を見せることができます。

後継者を育成するため、何に取り組まれていらっしゃいますか?

旋盤型の機械を使って大型のガラス製実験器具を製作しています。
旋盤型の機械を使って大型のガラス製実験器具を製作しています。
後継者はいろいろ探していますが、今のところ、これといった人はいません。ここにいる自分自身、後継者がいないから残っていてほしいと言われているくらいですから、公務員の場合、定員の枠もあって後継者探しは、なかなか難しい問題です。官公庁の定員削減も大きなネックになっていると思います。ただ、そうとばかりは言っておれませんので、ガラス工作室で公開実験をしたりして、少しでも後継者確保への道を開こうと努力しています。

これから「ものづくり」を目指す方たちへアドバイスをお願いします

大学や一流企業ばかり目指すのではなく、若い人たちはもっと、ものづくりに興味を示してほしいと思います。モノづくりの道に入るには、できるだけ若いうちの方が良いと思うからです。特にガラス工作の場合、円周面に炎を一様に当てるため溶けたガラス管を空中でクルクルと等速度で回す作業を伴うので、手首の柔軟な回転力が必要です。それが、年をとると手が回りにくくなる心配があります。人には器用、不器用があって、ものづくりに向いている人、いない人がいますが、努力すれば解決することだってあります。

最後にこれからの活動について教えてください

バーナーの火力を調整しながらガラス器具の形を整えていきます。何十年後かの実験成果が楽しみです。
バーナーの火力を調整しながらガラス器具の形を整えていきます。何十年後かの実験成果が楽しみです。
健康で70歳くらいまでは現役で頑張り続けたいと思っています。それまで後継者探しもしなければならないし、このまま私がいなくなったら、このガラス工作室は閉鎖になる運命だと思いますので、気が抜けません。それにしても、物性研でやっていることはすべて基礎研究ですから、どんな新しい物資が誕生するか大いに楽しみです。

どうもありがとうございました。
「ガラス屋」と自称し、この道一筋の人生を歩んできた今井さんは、高度最先端科学技術のシンボルである物性研究所という研究者集団の中で異質な存在に見えます。しかし、その技が作り出す実験用ガラス容器が、日本の次世代テクノロジーにつながる新物資を生み出す揺籃の役割を果たしていると言ったら過言でしょうか。決してそうではない気がします。

【問合せ先】  
東京大学物性研究所 ガラス工作室

■所在地   千葉県柏市柏の葉5-1-5
■電話    0471-36-3398
■FAX     0471-36-3398
■営業時間  9:00~18:00             
■休み    土・日・月・祝
■HP          http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/